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一期一会のある暮らし
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貴方の心に「花」よ、届け!

 1922年11月26日の夕刻、エジプトにある“王家の谷”では考古学者である「ハワード・カーター」が、スポンサーである「カーナヴォン」卿の到着を今か今かと待ちわびていた。そして扉が開かれた瞬間、中からは3300年間密封されていた王墓創建当時の空気が流れ出てきたと伝わる。「ハワード・カーター」が早速、何重かになった厨子を開けていくと最後には輝くような純金製の人形棺(人の形をした棺桶)が現れ、「ツタンカーメン」のミイラが横たわっていた。またその石棺の上に、ひからびてほとんど炭化してしまってはいるが、明らかに大きな“花束”が置かれているのが確認された。これこそ、「ツタンカーメン」と仲睦まじいと評判だった王妃「アンケセナーメン」が、若くして命を落としてしまった王のために、自らのメッセージを託して置いた“矢車菊”だったのだ。まばゆいばかりの副葬品の数々。しかし何故か最後の思いは“花束”に託された。
 人にとって、「花」とはいったいどのような存在なのか。「東京美術学校(現「東京芸術大学」の前身)」の設立に貢献し、後に日本美術院を創設した「岡倉天心(本名、岡倉覚三)」はアメリカのボストン在住時代に英語で「茶の本」という名著を書き上げた。私は若い頃、その翻訳本を読んだのだが、第六章は、「花」について書かれている。曰く、太古の昔、人は愛する者に「花」をささげた瞬間に“獣(けだもの)”の心から抜け出し、人となったとある。確かに、どんなに可愛がっている犬であっても、すり寄って来る猫であっても、彼らは決して野に咲く「花」も捧げてはくれない。もちろん犬や猫だけでなく、人間以外の動物にとって、「花」は単なる“物体”でしかない。ところがそれが“人”となると、「花」は精神文化の成熟に、大いに影響するものとなる。人は恋をすると「花」に心惹かれるようになり、一見何の役にも立たないように見える「花」が人の心に訴えかけて、人は初めて“芸術の世界”に足を踏み入れたとも書かれている。まさに「花」が持つ造形美が、人の芸術的能力に影響を与えているかのようだ。
 今月は題材が題材だけに、読者からは、いささかロマンチックに過ぎるというお言葉を頂きそうだが、「花」が人に与える影響は、決して小さく無いようだ。例えばヨーロッパに目を転じると、そこには常に生活の中心に「花」がある光景が広がる。スイスを旅行した時に見た、各家の窓辺に置かれたプランターに咲き誇る「花々」の美しさは格別だったが、それは自分だけがその美しさを独占せず、道行く人々にも幸せをお裾分けしたいという気持ちからだという。また英国では、毎週金曜日の仕事終わりには花屋に寄って、「花」を買って帰る習慣があるらしい。これは、週末の“家族団らん”を彩ったり、恋人にプレゼントするためだ。
昔から「花の命は短くて、苦しき事のみ多かりき!」と言われるが、確かに「花」の“儚さ”こそ、その“美”の神髄かもしれない。どれほどの“美”をまとって咲き誇っても、限りあるものが持つ宿命を感じざるを得ない。ただ、そのことに思いを馳せるとき、「花」は“人の生涯”とリンクして、生きることの“美しさ”、“哀しさ”、“歓び”を運んでくれる。ああ、貴方の心に「花」が届きますように。

文 国影 譲

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